元々はお惣菜屋さんとして全国展開しているクックチャム。同社が2021年5月から取り組んでいる、「かいじゅうのごはん」というD2C離乳食。遊んで欲しかったり、寂しい時、さらにはお腹を空かせた時に、世界で一番可愛いかいじゅうになる赤ちゃん。育児で避けては通れない「離乳食作り」を誰でも安心して与えられる製品へ。Pivot Tokyo 現役大学生インターンの山崎が、同社竹下社長にインタビュー。お話を伺っていると、商品開発への想いは、単に安全な離乳食の提供というよりさらに大きなものでした。

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Speaker Profile
竹下 啓介
株式会社クックチャムプラスシー
代表取締役 - 法政大学卒業後新卒で人材派遣ヒューマン・タッチ(現ヒューマンリソシア)入社。全国の営業成績トップになり、中途でインテリジェンス子会社ECサーブテクノロジーの立上げマーケティング本部GM就任。その後クック・チャムに入社し九州事業部を立上げクックチャムプラスシーを設立。現在お惣菜チェーン36店舗。新事業として冷凍離乳「かいじゅうのごはん」無人店舗「おかずストック」を立上げ。
- 竹下社長の今までの経歴と会社設立の経緯を教えてください。
- 大学卒業後、人材サービス系会社に入社し、主に人材派遣を行っていました。その後、株式会社インテリジェンス(現:株式会社パーソル)に入社しました。そこではベンチャー企業のような仕事をしていました。そして、ご縁があってクックチャムに入社しました。入社後すぐ、九州に事業部の立ち上げがあり、7年をかけて事業規模を拡大し、九州に特化した事業会社という形で株式会社クックチャムプラスシーを設立しました。
自身の子どもがきっかけ。日本食がわかる子どもを育てたい
- 商品説明や商品開発に至った経緯を教えてください。
- 赤ちゃんって世界で一番かわいいかいじゅうだと思います。
私にも子どもがいます。アレルギーを持っていたということもあり、調味料などの入っていない自然なものを食べさせてあげたいという気持ちがありました。まずは、出汁にこだわることから始めましたが、市販のだしパックには、添加物やよく内容がわからないものが入っていました。弊社は元々、「お母さんの作るお惣菜」を提供する会社です。そこで、実際に家庭で行われている出汁の取り方で「だしパック」を作ることから始めました。離乳食に関しても、手作りの離乳食同様に添加物を使わず、天然由来の素材だけで作る離乳食の開発を進めています。
また、出汁作りから始めた理由のひとつに、「日本食を守る」という目的があります。経済の発展、グローバル化によって様々な食生活が楽しめるようになりました。一方で、日本食の危機という話もあり、日々の食事で「日本食の味がわかる子供を育てる」ことがとても重要だと感じています。日本食のベースとなっているのは「出汁」。カツオと昆布から出てくるアミノ酸の味を味覚として残さないと、日本食の奥ゆかしい美味しさがわからない子たちが増えてしまうと懸念しています。日本食の美味しさがわかる子ども達を増やすため、味覚が形成される8歳まで、正しい食事を提供するということを考えて商品開発をしました。
- 「味覚形成」とはどういったものなのでしょうか。
- 味覚形成は、味蕾(みらい)と呼ばれる味の蕾(つぼみ)のようなものが舌の上にあるのですが、それが存在しているのが8歳までだと言われています。そのため、8歳までの期間にアミノ酸やグルタミン酸など、さまざまな味のパターンを経験しないと、味を吸収することができなくなってしまいます。そのために世界的に展開している大手ファストフード店などは子供向けのメニューも揃えているのではないかと思います。そういったファストフード店が良い悪いという話ではなく、日本食の美味しさがわかる子供を育てていくためには、8歳になるまでに日本食の味覚を経験させてあげることが大切だということです。また、日本食は基本的に健康食と呼ばれているので、日本食の味を覚えることは大人になってから健康に生きるためにも大事だと思います。
- 実際の商品への反応とはどのようなものだったのでしょうか。
- 商品を販売してみて、発見したことが2つあります。1つ目は、「日本のお母さんたちは罪悪感を抱いている」ということです。世のお母さんは、数時間おきに起きる赤ちゃんのお世話でなかなか熟睡することができません。それでも、我が子に良いものを食べさせたい、という思いから、辛くても必死に離乳食を作っています。そんな中、約8割のお母さんたちが、体調不良やストレスでイラッとしてしまう自分自身に対して罪悪感を抱きながら育児をしているというデータがあります。
2つ目は、「離乳食を作ることは難易度が高く、主にお母さんの役割になっている」ということです。本当は、お父さんも手伝うことができれば良いのですが(私も含めて笑)、離乳食を作ることに対しての恐怖心も多くありました。「かいじゅうのごはん」は冷凍のキューブを電子レンジで過熱するだけで離乳食を作ることができ、どの年代、性別の人でも育児に携わることができるようになります。
やはり、親の手作りのごはんは最大の愛情表現だと思います。でも、親も人間です。気分が乗らない時や忙しい時もあります。そんな時に「かいじゅうのごはん」を使うことで、手間を省くことができ、明るい気持ちで子育てをする手助けになればと思っています。
- D2Cでうまく行っている点、課題はなんですか。
- 元々、実店舗でお惣菜屋を運営しているので、D2Cという形態をとることで一気に販売エリアが大きくなりました。ECを活用することで、より多くのお客様に自社の製品を届けることが可能になりました。オンラインの利点は、福岡で事業を展開していても東京や北海道、さらには世界中の方々に商品を販売することができます。
また「D2C」は、お客さんに直接商品販売ができるので、商品への想いを伝えやすくなったり、繋がりを深く持ちやすい点もあると考えています。これから先、深い繋がりを持つことで、お客様一人一人に合わせた提案(パーソナライズ)をすることもできるのではないかと思っています。
課題に感じている点は、商品の単価が高くない飲食分野においては、いかにお客さんにリピートしていただき、会社の利益に繋げるか、が課題です。どんなに良い商品であっても、収益が上がらなくては継続的にお客様にサービスを提供できません。赤ちゃんが離乳食を食べる期間は一般的に1年と言われています。現在提供している商品は、離乳食の初期段階で使うペースト状のものですが、今度、固形物の段階で活用できる、おかゆやうどん、お菓子などの商品の販売を考えています。
- 事業経営を行なっている上で、一番大切にしていることを教えてください。
- 事業を行う上で、「初心を忘れない」ということを大切にしています。理念やビジョンという言葉に変換されますが、「なぜ自分達は事業を行っているのか」という軸を会社を運営していく上で作り上げていく必要があると思います。また、変化の激しい現代の社会においては、目的や価値観に強い軸を持つことはとても大切だと思いますが、手段にこだわらず、柔軟性を持つということも大切だと思います。
若い頃は、「お金持ちになりたい。1番になりたい。」という気持ちを強く持っていました。社会人としての経験を重ねるにつれ、「世の中に対してどのような価値を提供したいか」ということを考えるようになりました。自分自身や、会社内のことについて集中することは、長期的に事業を継続させていく上ではよくないのではないかと思います。私は今、「食」の分野が人々に与えるインパクトはとても大きいと思っています。良い食を提供することができれば、全人類に関わることができると思っています。それが人々が元気になることに繋がり、他の数多くの産業が発展していくのでは、と考えて事業を行っています。
- 最後に、今後の事業の展望を教えてください。
- かいじゅうのごはんに関しては今度、世界に進出させたいと考えています。日本特有のダシという文化を世界に広めます。世界中で出汁の味がわかるこどもを育てることは、塩分を多く使わなくても美味しさを感じることのできる人が増え、人類の食事に使う塩分の量を減らすことに繋がります。塩分の摂取量を減らすことで心血管疾患のリスクを減らすことができ、体の健康に繋がります。アメリカでは一歳からピザを食べていると聞いたこともあります。幼児期のうちに、自然な方法で作られたアミノ酸の味がわかるように味覚形成をすることで、大人になった時の健康に繋がると信じています。「日本食」という健康食を世界に広めることで世界中の方々の健康に貢献します。
Writer's Comments
一人暮らしで自炊をしていると、料理の大変さを強く感じます。かいじゅうのごはんはこれから先、お母さんたちの負担を軽減し、赤ちゃんとお母さんのコミュニケーションを助けるツールになると思います。また、今度世界進出をし、世界中の食生活改善に貢献することが楽しみです。
Interviewer Profile

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山崎主真
APU -
都立日野で高校野球東京選抜に選ばれる
野球推薦で大学進学も、心機一転退学。一からやり直して大学受験。今年APUに合格
東京都代表としてキューバ遠征に参加した際に、日本とキューバの経済格差を感じました。将来、教育を広めることによって経済格差を解消するという目標のもと、今を全力で生きている大学生です。