2021年、7月に株式会社資生堂はアクセンチュア株式会社と、合弁会社「資生堂インタラクティブビューティー株式会社」を設立した。日本発のグローバルビューティーブランドとしてトップを走り続ける資生堂は、これからのデジタル化をどう考えているのか。これまでの経歴も振り返りながら、入社以来長くデジタルチームをリードし続ける仙田浩一郎氏に話をきいた。

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Speaker Profile
仙田浩一郎
資生堂インタラクティブビューティー株式会社 DX本部 オムニエクスペリエンス推進部
- はじめに、仙田さんの資生堂入社〜現在までのキャリア背景を教えて下さい。
- 新卒で1994年に資生堂に入社し、まずIT部門、いわゆる情報システム部門に配属されました。
IT部門では、資生堂が店頭に導入しているPOSレジや顧客管理端末の開発や、収集したPOSデータの分析などを担当していました。
その後、社内公募制度を活かして、デジタルマーケティングに関する業務に移ったという経緯です。
その当時は、広告やソーシャルメディアなどデジタルマーケティングの業務が広がりを見せていた時代だったので、企業サイト運営やEC、ソーシャルメディア、オンラインコミュニティ、バイラル動画のコミュニケーションなど色々な業務を経験することができました。デジタルの業務は領域ごとの専業性がも強い傾向にありますが、僕としては幅広い業務に携わることができてよかったと思っています。
現在は資生堂インタラクティブビューティーにおいて、日本におけるデジタルトランスフォーメーションを実現すべく、特にオウンドメディアのコンテンツやサービスに取り組んでいます。
入社以来ほとんどの期間に渡り、幅広いデジタル関連の業務に携わってきた仙田氏。
ブランドの変遷とデジタルを取り巻く世の中の変化を共に見る中で、何を感じてきたのだろうか。
- マーケティングの手法や、商品開発も含めて、デジタル上でのコミュニケーションやファンとのコミュニケーションが重要になってくる潮目を感じたことはありますか?
- ソーシャルメディアが普及し、マス広告のような一方通行のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションや、生活者自身が情報発信をするようになったタイミングでしょうか。企業側として、生活者とどのようにつながり、関係を築いていくかということを考えるようになったと思います。
- 資生堂が提供するビューティーの定義は時代によってどう変遷してきたと思いますか?
- 資生堂が提唱するビューティーの定義は創業以来変わってないと思っています。現在資生堂は企業ミッションとして「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」を掲げていますが、以前は「美しい生活文化を創造する」という言葉も掲げており、「美しさ」を見た目のものだけでない広義で捉えてきたというスタンスはあります。また、伝統的なものを守りつつも、常に新しいことを創造していくというDNAが根付いていると思います。
- デジタルに関する業務に携わる中で、ご自身が楽しいと感じる瞬間を教えてください。
- 僕自身は、デジタルに関わるいろいろなジャンルの仕事を担当してきましたが、生活者とインタラクティブなコミュニケーションが発生するコンテンツやサービスはすごくいいと感じています。例えば、オンラインコミュニティの取り組みでは、資生堂の熱烈なファンの投稿からファン同士の会話が活発化していくことが多く見られました。ファンの熱量が新しいファンを創っていく、そんなムーブメントを見られるコンテンツに携わっている時はとても興味深く、楽しいと感じています。
今現在新しい取り組みとしてBC(Beauty Consultant=美容部員)がライブストリーミングを毎週実施していますが、顧客からのリアクションやコメントでコンテンツ自身もよりよくなりますし、BC自身のモチベーションもかなり上がっています。
いち早くオウンドメディアやEC、デジタルコンテンツづくりに取り組んできた資生堂。今もその流れは形を変えて続いている。そしてそれがブランドに携わる多くの人のモチベーションにも寄与している。
デジタル化と人の気持ちの好循環を上手く設計しているブランドとして、現場である店頭とブランドマーケティングのあり方も変わってきたのだろうか。
- コロナ渦の状況は、コミュニケーションの形を大きく変えたひとつの要因だと思いますが、ブランドとしてお客様とのタッチポイントだったり、何をコミュニケーションの前面に出すのかにも変化はあったのでしょうか。
- 今までであれば、店舗店頭でBCと会話をして商品を購入するということが当たり前でしたが、コロナ禍によってそれがかなわなくなったとき、一気にその手法や「当たり前」を変えるためのチャレンジは加速したと思います。具体的にはBCによるライブストリーミングやWebカウンセリング、さらにはBC自信がSNSで情報発信をしていくといったデジタル上の活動です。店頭で待っていてもお客様は来ない。だからこそBCが自ら生活者に向けて発信する、これまでは1対1だったのが、何千人、何万人という人とコミュニケーションできるようになってきたことは、大きな変化です。
今までであれば、店舗店頭でBCと会話をして商品を購入するということが当たり前でしたが、コロナ禍によってそれがかなわなくなったとき、一気にその手法や「当たり前」を変えるためのチャレンジは加速したと思います。具体的にはBCによるライブストリーミングやWebカウンセリング、さらにはBC自信がSNSで情報発信をしていくといったデジタル上の活動です。店頭で待っていてもお客様は来ない。だからこそBCが自ら生活者に向けて発信する、これまでは1対1だったのが、何千人、何万人という人とコミュニケーションできるようになってきたことは、大きな変化です。
一方、ブランドマーケティングの視点では、マス広告を主体としたプロモーション型のコミュニケーションからデジタルを主体としたAlways-On型のコミュニケーションに変化してきています。ブランドサイト上で肌診断やメーキャップシミュレーションなどのコンテンツを配置したり、SNSでの継続的なコミュニケーションを重視するようになり、生活者に対してよりパーソナライズした体験を提供するようになってきました。
世の中の変化や、制限にも負けず、出来ることを少しずつでも挑戦して急速にブランド・店頭共に変革してきた。
デジタル上で出来ることも増えてきたという中で、それでもリアルを越えられない、越えられるように変えていかなければならないと感じるところもあるのだろうか?
- 今現在はリアルでしかできないこと、今後デジタル化するにあたってリアルの代替としていかなければならない、と感じていることはあるのでしょうか?
- リアルでしか出来ないことをどうデジタルでクリアするか、という視点よりも、デジタルとリアルを融合して考え、生活者のジャーニーに合わせた体験をどう提供してくかが重要だと考えています。例えば、購入したいと思った時に、ECやリアル店舗に誘導するシームレスな導線を揃えてあげるとか、店舗で商品について尋ねたいことがあった時に、QRコードなどを経由してチャットでコミュニケーションできるといったオムニ体験です。
- 店頭、ブランドチーム、デジタルチーム、現在の体制のなかでより有意義なデジタルトランスフォーメーションを推進するために最も重要だと感じることはなんでしょうか?
- ひとつはデータです。貯めるだけではなく、分析し、さらにパーソナルなコンテンツやサービスを提供していくサイクルが重要です。はBCの存在です。資生堂は全国に約8,000名のBCが在籍していますが、それはとても大きな強みです。SNSの時代になって、8,000名のBC一人ひとりがメディア、チャネルになる可能性があると感じています。
最後はテクノロジーですね。テクノロジーも日々進化しているので、それを使ってお客様にどういい体験を作っていくかということがとても重要だと思っています。
ブランドとしてのデジタル化を推し進める上では、データ・テクノロジーに加えてBCの存在が鍵になっていることは明らかになった。
直近のデジタル化に関連する取り組みの中で、デジタルとリアルのおもしろい融合についても聞いた。
- 直近のBCの取り組みや、顧客との複数のタッチポイントを融合していく取り組みの中で興味深いことがあれば教えて下さい。
- 例えば、先程から例に上がっているライブストリーミングに関していうと、取引先である百貨店のウェブサイト上でもライブストリーミングを実施していたりしています。また店舗ごとにSNSアカウントを開設し、BCが日々情報発信を行っています。生活者と資生堂が直接つながるだけでなく、百貨店のサイトや店頭に生活者を誘引していくことで、取引先との協業や関係強化にもつながる取り組みになっています。
こうした活動によって、BCのデジタルに対する意識も高まってきていることも嬉しい変化ですね。
今後、デジタル化の加速に更なるアクセルを踏むことは間違いない資生堂。
ビューティーブランドとして常に先頭を走るブランドが、今後、どのようなチーム体制を強化していくのか。
- デジタルへの取り組みや、ビューティーブランドのパイオニアとして負けたくないことがあれば教えてください。
- 繰り返しになりますが、資生堂には強いブランドがたくさんあると言うのが圧倒的な強みです。多くの強いブランドを持っていること、多くの顧客接点を持っていることというのは、すなわち顧客に関する多様なデータを蓄積・分析し新しいコンテンツやサービスを生み出すことができることだとと思っています。資生堂が顧客のことを最もよく知るブランドであり、顧客に対してテーラーメイドな体験を提供できることは他ブランドに譲れないところですし、追求していかなければならないところだと考えています。
- 資生堂インタラクティブビューティの設立から、どんな変化を期待していますか?
- 資生堂インタラクティブビューティーの設立によって、デジタルプランニング、コンテンツ、データ分析、SNS、CRMなど、全てのデジタル領域が強化され、ブランド、セールス、BCと一丸となってデジタル化を強固に、かつスピーディーに実現していく体制が整いつつあります。資生堂を志望する人はどちらかというと化粧品のマーケティングをやりたいとか、商品開発がしたいとかという方が多いと思いますが、今後は、資生堂でデジタル領域のチャレンジがしたい、と思ってジョインしてくる仲間が増えてくると嬉しいです。
Writer's Comments
伝統あるブランド、その資産とデジタル革新の融合を目指す、日本のトップビューティーブランドである資生堂。テクノロジーの力だけでなく、ヒトの力を活かしたデジタルトランスフォーメーションの推進にこそ、日本らしいテーラーメイドの顧客体験を提供できる理由があるのだろう。(Pivot Tokyo)
Interviewer Profile
- Pivot Tokyo株式会社