NFT、ブロックチェーン、クリプト。ネットや書店に並ぶビジネス誌でもこれらのキーワードを見ることが増えました。なぜ今NFTなのか?日本のブロックチェーンゲームのパイオニアともいえる、double jump.tokyoの代表、上野氏に伺いました。

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スピーカープロフィール
上野広伸
double jump.tokyo株式会社 CEO -
株式会社野村総合研究所にて数々の金融システムの基盤構築に参画。
前職の株式会社モブキャストにて執行役員、技術フェローを歴任し、プラットフォーム及びゲームサーバーの設計・開発、スマートフォンゲームの開発基盤の構築を指揮。
2018年4月にdouble jump.tokyoを創業。
- NFTの認知は、キャズムの上層には届いているが、実際に保有・運用している人が少ない中で、NFTやブロックチェーンに汎用性を持たせるためには何が必要だと思いますか?
- キャズムを超えるには、いくつか必要な事がありますが、ユーザーのリテラシーを上げるのはやはり時間がかかります。2021年に注目されたおかげでNFTという言葉の認知度は一気に上がりましたが、NFTという言葉が認識されるまで数年かかりました。新しい面白そうなことがあったとしても、人は学習コストを必要とするものにはなかなか取り組めないものです。
概ねゲームの世界は、比較的新しい技術が受け入れられやすい業界であると思います。しかし、それでもマスアダプションをする際は、自分がかなり興味のある作品(有力なIP)がその新しい技術に適応する、となって始めてその技術リテラシーを学んだりするものです。そして、ある程度、リテラシーが上がってからようやく、ユーザーは試しに買うことにつながると思います。一度でも買ってしまえば慣れてきますが、このように最初の一歩に時間がかかってくると思います。
企業の事例という点では、水面下では色々な企業が興味を持ち、取り組まれていると思うのですが、特に日本の企業は前例主義なところも多いので、どこかの大手が先駆者として成功したビジネスの形を見出したら、一気に多くの企業が取り組むと思います。
先駆者として成功したら大きなアドバンテージを生み出せるとわかってはいるものの、最初の一歩が踏み出せない企業が多いという現状であります。
- 御社は4年前から、NFTやブロックチェーンの分野に取り組まれていますが、この分野に特化したきっかけはなんでしょうか?
- 2017年頃、ソーシャルゲーム業界はいちクリエイターとしては若干閉塞感を感じていました。短期間で小規模でもアイデア一つでヒットする時代は終わりを迎え、多くの予算と時間をかけたクオリティの高い大作をグローバルに配信してが利益を生む時代に変化しました。
市場が小さくても、世界的にインパクトを与えられる方が面白いと感じていた2017年末、ちょうど『CryptoKitties』という猫を集めていくゲームが流行りました。これがNFTという概念を生み出したのです。ただ猫集めをするような遊びだったのですが、世界の一部の人が熱狂しているのを見て、面白そうと感じ2018年4月に創業しました。
こういうやり方だったら、新しいUXを提供できるかもしれないと思ったのがきっかけです。
NFTに未来は感じていたが、去年みたいに一気にくるとは思っていなかったのが正直なところです。急にNFTの知名度が広がったのにも原因があり、コロナによってリモートワークが増え、ネット上でのコミュニケーションが多くなったことも関係していると思います。
- ブロックチェーンやメタバースト X ファッションの相性が良い理由はなんでしょうか?
- ファッションの本質から触れるのですが、ファッションは8割が顔と体型だというのはみんな知っている事実であると思います。メタバースの世界において顔と体型はパラメータにすぎません。もし顔と体型がいじれるなら、いいとされる顔と体型にしたいわけです。リアルな世界だと、顔や体型、髪型で人を区別していた時代が終わり、顔と体型が似通った世界においては服装こそアイデンティティになります。
日常生活だと、機能性を重視しあまり目立った格好をする人は少ないが、デジタルの世界だと区別がつかなくなるため少し目立った格好をします。なので、本当にファッションに興味のある人がお金を使うのはここからだと思っています。リアルの世界で挑戦できなかった目立ったファッションを、メタバースの世界でアイデンティティを形成するために選び始めます。
どんなファッションでもボタンひとつですぐに着用できる世界であり、ここにお金をかける人が増えると予想してます。
このように、ファッション業界はおそらくリアルファッション市場よりもデジタルファッション市場の方が、メタバース、NFTという文脈では大きくなります。
- そういう意味ではメタバースのプラットフォームも増えてくるのでしょうか?
- 今は、少しバズワードになっているメタバースですが、各事業者はそれぞれのメタバースを出してくるので、結果的にマルチバースの世界になると思います。色んなメタバースが世の中にたくさんある中で、当然ながら一つのメタバースに止まるのではなく、複数のメタバースに行き来しますよね。そんな中、それぞれの会社が出しているメタバースの中で、アバターが同じ服装をするために、どこの会社がそのブランドの服と証明をするのかという中立的な立ち位置が必要になってきます。そこで、中立的なデータベースとしてブロックチェーンが生きてくるのです。ブロックチェーンのデータベースでどこのブランドの洋服を着ているか保存されていたら、どこの企業もその情報を参照してアバターに着せる洋服を紐つけられます。
なので、メタバースがさまざまな会社から出されれば出されるほど、その中立的なデータを誰が管理するのかというところにブロックチェーンが使われます。マルチバースのハブとしてのNFTというのが、図式としては正解になるのではないでしょうか。
- 既存のGAFAではない新しい企業が出てくると思いますか?
- もちろんGAFAもこれまで通りの役割を果たすと思いますが、すみ分けていくような気がします。
イノベーションのジレンマがあり、いわゆるWeb3.0の世界とWeb2.0の世界で結果どちらで利益を得ていくのか問われると思いますが、実際はWeb3.0とWeb2.0は共存する世界だと思います。
web2.0の既存の大手事業者さんは、web3.0という新しい概念を利用するのがビジネスとして正しいやり方です。
それに対して、web3.0だけでは物事は進まず、web3.0という非中央集権的な存在もweb2.0のツールを利用します。なのでweb2.0もweb3.0も互いに利用し合う世界になるでしょう。
- double jumb.tokyo社について
- NFT・ブロックチェーンゲーム専業開発会社として、2018年4月3日に設立。「My Crypto Heroes」「BRAVE FRONTIER HEROES」などのブロックチェーンゲームの開発や、大手コンテンツホルダー向けにNFTの発行販売やゲーム、メタバース連携を支援するNFT事業支援サービス「NFTPLUS」を提供。複数人で秘密鍵を管理できるビジネス向けNFT管理サービス「N Suite」の提供・開発を行っております。
https://www.doublejump.tokyo/
あとがき
NFTの歴史をたどると、アイデアは日本発祥だった。言語の壁なのか現状の世界的NFTブームと国内での盛り上がりを見ると温度差を感じずにはいられません。そんな中、海外勢と同じ視点でこの業界を見ている上野氏。数年前からNFTゲームの開発に着手し、今では業界をリードする存在。上野さんのお話を聞き、ゲーム、メタバース、NFT、それぞれを掛け合わせた新しいエコシステムで繰り広げられるであろう新しい消費行動にも注目したいと思いました。
インタビュアープロフィール

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満木 夏子
Pivot Tokyo - Pivot Tokyo 主催。D2C Summit、NFT Tokyo 立ち上げ。日本からグローバルに挑戦する人を増やすため、GKCorsという英語の幼児教室の運営も。