INTERVIEW

COVID-19が教育に与えた影響と学びとは: バンコクパタナスクールの事例

新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの業界に影響を与えました。教育も例外ではなく、多くの学校や教育者にとって非常に厳しい年となりました。しかし、コロナによって新たな教育の機会も生まれました。教育界はどのように変化したのか。今回は、タイで最も歴史のある英国式インターナショナルスクールである、バンコク・パタナ・スクールのシェリル・レゴ氏とディーン・チョードリー氏に、コロナ禍の経験について伺いました。

スピーカープロフィール

シェリル・レゴ / ディーン・チョードリー

Head of Development, Alumni and Marketing / Foundation Stage Leader of Learning and Curriculum
まず、学校の概要を教えてください。
レゴ氏 : 「バンコク・パタナ・スクールは、64年前にタイで最初の英国式インターナショナルスクールとして開校しました。この学校は、イギリス人の子どもたちや、イギリスのカリキュラムを学ぶ子どもたちが、バンコクを離れることなく学ぶ環境を提供できるようにと設立されました。当校は、タイで最も国際的な学校です。生徒の国籍は、65ヵ国にのぼります。また、タイ人比率が最も低い学校でもあり、タイ人の生徒は20%しかおらず、残りはすべて他国籍の生徒です。

私たちは、タイのインターナショナルスクール界において、リーダー的存在であるという評判を得ています。私たちの教育スタイルは、常に現代的です。私たちが最も力を入れているのは、教師のトレーニングです。専門家を招いたり、セミナーに教員を派遣したりしています。研修から帰ってきた先生達は、学んだことの中からトップ3をマネージャーに伝え、それをクラスルームで試験的に実践します。トライアルセッションでは、他の仲間がそれを評価し、クラスでの採用、不採用が決定します。現代的な教育スタイルといえども、新しいという理由だけで何かを取り入れることはしません。」
新型コロナウイルスにより、多くの教育機関はオンライン学習を余儀なくされました。オンラインで授業ができることは素晴らしいですが、同時に、若年層にとっては多くの課題があります。パタナでは、どのような課題に直面したのか、またそれをどのように克服したのでしょうか?
レゴ氏 : 「1年前の2020年3月14日、タイ政府は、明日か2日後に学校を閉鎖すると宣言しました。突如、私たちはこの大きな学校をオンラインに移行せねばなりませんでした。 2,200人以上の生徒と350人の教師がいて、48時間後には全員がオンラインになる予定でした。この時が来ることはわかっていましたが、どのシステムを使うのがベストなのか模索中でした。というのも、本校では教師は自分が使いやすいものを選択できるようになっていたからです。私たちは、たとえ大規模な学校であっても、教員チームには、各クラスの子供たちに最適な方法で、個に合わせた教え方をしてもらいたいと考えています。そこで私たちは、オンラインで先生に、Microsoft teams、Google classroom、Zoom、flipgridなどのツールを選択肢として提供しました。その中で、自分が一番使いやすいと思うものを使ってもらいました。

もうひとつは、学校にいるときと同じように教室を運営してほしい、ということです。生徒と先生は物理的に学校にいるわけではないので、少し違和感がありますね。我々の学校では、通常生徒が教室に来ると、先生はその日のレッスンについて「今日はこういうコンセプトで勉強します」とまず大きなテーマを伝えた後、詳しく概念を説明します。その後、子どもたちは小グループに分かれて座り、一緒に調べたり作業をしたりします。先生は、ファシリテーターのようにグループに出入りします。先生がグループに出入りしながら、生徒が学習しているかどうかを確認しますが、同時に、コンセプトを理解していない生徒を見極めます。理解しきれていない生徒がいると、先生は生徒をそのグループから出し、グループを再編成し、コンセプトを理解していない子供たちと一緒に作業をします。このようなことは、教室では常に行われています。私たちはこれをオンラインで行いたかったのです。保護者の方からは、『40分授業のうち、なぜ10分だけ先生がオンラインなのか』と言われ、大変でした。これは、生徒たちがグループに分かれて共同作業を行うことができるからですが、普段学校での授業を観ていないご両親からすると理解しにくいところもあったかもしれません。オンライン授業をするうちに、オンラインでの生徒間のコラボレーションが進んでいることに気づきました。チャットを見て、お互いに学び合っていることがわかりました。例えば、ある生徒が『カメラの電源の入れ方がわからないんだ。先生に聞こうと思っているんだ。手伝ってくれませんか』と質問すると、他の生徒が助けていました。この現象に、私たちはとても驚きました。オンライン学習でこのようなことが起こるとは思いませんでした。」
どのようにしてコンテンツを調整し、子どもや保護者が十分なサポートを受けられるようにしたのですか?
レゴ氏:「私たちは、毎週、子どもたち、保護者、そして教師に簡単なアンケートを実施しました。質問は5つだけで、結果を比較できるよう、全員に同じ質問をしました。そして、その結果を授業に反映させました。これはとても重要なことでした。もし、先生も親もすごくいいと思っているのに、子供達が全く良いと思っていなければ、それは何かが間違っているということですから。」
ロックダウンの際、難しかったことは何ですか?
レゴ氏:「ECA(Extra Curriculum Activities:課外活動)プログラムの数が少なかったことです。例えば、レゴクラブやチェスクラブなど、簡単にできるものもありますが、バレーボールチームはどうすればいいのでしょうか?バレーボールの練習は一人ではできません。パートナーが必要になりますが、ロックダウン中はパートナーを持つことができません。私たちのスポーツコーチは、とてもクリエイティブに様々なホームアクティビティを提供してくれました。例えば、お家でバレーボールはできませんが、足を鍛えるための20分のプログラムを行うなど。

私たちがロックダウン中最も心配していたのは、生徒たちの心の健康状態でした。なぜなら、オンライン授業は非常にストレスが多いからです。親や教師は、教育のために学校に来ていて、生徒はその教育を楽しんでいますが、学校に来ている理由は、友達がいるからです。これは、我々にとって気づきでした。ロックダウンの間、彼らにはそういった友人とのつながりがなかったので、それをどうやってオンラインで再現するかを考えました。これが最大の課題でした。私たちの学校の価値観では、ウェルビーイング(幸福)が最も重要です。勉強面をオンラインでやることは、さほど困難ではありませんでしたが、1人1人の生徒の心が大丈夫かどうかを最重要視し、我々はそれを定期的にチェックしました。」
今回は、レゴ氏の他、低学年のカリキュラム・プランニングのリーダーであるディーン・チャウドリー氏に、短期間でオンライン授業用のプログラムをいかに設計したのか、を伺いました。

ロックダウンの準備はどのように行ったのでしょうか。
チャウドリー氏:「低学年の生徒向けのプログラムは、オンラインとのバランスをとるのが非常に難しかったです。私たちが重視しているのは、ヒューリスティック・ラーニング(*1) です。子どもたちの家庭学習をサポートすることが、私たちの最優先事項です。教師として考えなければならないのは、好奇心を刺激し、授業への積極的な参加を促し、一連の中核的な発達分野と特定の学習分野で子どもたちの進度にあわせたコンテンツを提供する方法です。私たちの主な目標は、子どもが自発的に行う探求、発見、心理社会的発達を統合した学習体験を生徒に提供することです。オンライン学習では、子どもたちが毎日顔を合わせることができないため、この時期に重要な個人的、社会的、感情的な発達が損なわれてしまいます。そのため、私たちがオンライン学習プラットフォームで実現したかったのは、生徒同士の会話や生徒との対面、生徒の様子を確認して家庭での学習が充実したものになるようにすることでした。私たちは、低学年の生徒全員にそれを行わなければなりませんでした。

毎週、3つのウェルビーイングコースがありました。これは、特に個人の社会的情緒の発達にとって非常に重要なものでした。子どもたちが少人数の形式で先生と一対一で対話する環境を提供できたことはとても良いことでした。このウェルビーイングコースでは、生徒と教師が、家庭での学習についてお互いに学びを共有する機会がありました。また、低学年の教師は、日々の活動を生徒の学習ブログに掲載しています。このブログに掲載されている内容は、パタナの生徒全員をサポートするためにカスタマイズされたものです。私たちは、ただワークシートや暗記学習を提供することはしません。生徒自身が思考スキルを身につけるために、教師がビデオを録画したり、家庭でのプレイ・ベース・ラーニングを増やしたりしています。私たちは、子どもたちだけでなく、保護者の方にも、このビデオを使って家庭での遊びベースの学習をどのように促進できるかを理解していただきたいと思っています。毎日、子どもたちはリソースにアクセスし、これらの活動に取り組んでいます。」
テクノロジー面について教えてください。貴校では、既に使用していたシステムがあったのでしょうか、それともコロナをきっかけに整備しなければならなかったのでしょうか。
チャウドリー氏:「我々は、先を見越してこの不安定な時代に必要と思われるすべての対策を講じていました。すぐに利用でき、保護者がアクセス方法を知っているというシステムを用意することが非常に重要でした。ブログを保護者と共有するために、私たちはFireflyを使用しています。3週間のプログラムでは、「3匹の子豚」「3匹のクマ」「ジンジャーブレッドマン」などの昔話を使った学習しました。子どもたちは、人形劇を作ったり、小道具を用意したりして、物語を自分で語るビデオを撮影したりしました。私たちスタッフは、子どもたちのためだけでなく、家庭での親のサポートも兼ねて、ビデオを制作しました。私たちは幼児教育の専門家ですが、保護者は、子どもの学習と家庭での仕事を両立させるのは難しいことです。そこで、子供ができるだけ自立して学習できるようにすると同時に、親をサポートするためのビデオ制作を心がけました。」

*1 :ヒューリスティック・ラーニング:ヒューリスティックなアプローチとは、目標を達成するために、試行錯誤をしながら解決策を探す方式。実践的なメソッドで、完璧であることは重視されません。既存の学習方法では、仮定や理論的な要素をを用いるのに対し、ヒューリスティックな学習は、テスト、実行、実践などを行います。「ヒューリスティック・メソッド」という言葉は、学術研究を除き一般的には使われませんが、成功した起業家や企業では広く使われています。

■ バンコク・パタナ・スクールについて

バンコクパタナスクールは、2歳から18歳までの生徒を対象としたタイで最初で最大のブリティッシュ・インターナショナルスクールです。献身的な保護者と献身的なスタッフの管理のもと、非営利団体である当校はタイの教育の最前線に位置し、今日では東南アジアで最も尊敬される教育機関のひとつとなっている。世界65カ国から集まった2,200人以上の生徒に、基礎教育から上級教育までを提供しています。当校では、11年生までは英国のナショナル・カリキュラムに準拠し、12・13年生では国際バカロレア・プログラムを採用している。

あとがき

パタナに限らず、世界の学校は子供自身で考えさせること、ウェルビーイングについてとても真剣に考え様々な施策を行っています。コロナ禍でも子ども達にベストな教育環境を提供するために教員、スタッフの方々が常にテクノロジーやコンテンツをアップデートし続けている点が素晴らしいなと思いました。

インタビュアープロフィール

満木夏子

Pivot Tokyo / GKCors
Pivot Tokyo 主催。日本からグローバルに挑戦する人を増やすため、GKCorsという英語の幼児教室を運営している。世界最大級のテクノロジーカンファレンス、ウェブサミット日本事務局のレプレゼンタティブも務める。

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