代替肉、皆さん食べたことありますか?日本では、代替肉を生産している企業はいるものの、アメリカのように人々がこぞって植物性由来の肉を選択するようなトレンドはありません。欧米では、環境保護の観点などからも代替肉へのシフトが支持されています。今回は、代替肉の市場をリードする米国のインポッシブル・フーズのEsther Cohn氏にインタビューしました。近々上場すると噂されているほど勢いのある同社。企業のミッションや今後の展望について伺いました。

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スピーカープロフィール
Esther Cohn
Impossible Foods
- グローバルに展開について
- 私たちの長期的な目標は、世界のフードシステムを変革し、世界の主要地域で製品を展開することです。2018年4月には初の海外市場である香港に進出し、2018年7月にはマカオ、2019年3月にはシンガポールでの販売を開始し、今後はアジアの追加拠点への展開を予定しています。インポッシブル・バーガーは、2020年9月にカナダで、世界的に権威のある賞を受賞したレストランでデビューを果たし、その後にカナダ国内のSobeys(カナダの大手スーパーマーケット)の600店舗でも展開がはじまりました。
- なぜアジア市場を先に狙ったのですか?
- 私たちが海外市場の最初の地域としてアジアを選択した理由はいくつかあります。まずひとつは、アジアには世界で最も舌の肥えた食通の人やシェフがいて、文化や食のトレンドの世界的な指標にもなっているからです。
また、企業のミッションを達成するためには、肉の消費量が世界の需要の44%を占め(OECD 2016)、肉の需要が最も急速に伸びている地域から展開する必要があると考えていました。それがアジアだったのです。肉の需要は、地球上のどこよりもアジアで急速に伸びています。動物性食品の需要が最も伸びるのはアジア市場であり、今後数十年で70%の成長が見込まれています。OECDとFAOによると、中国は世界の肉の28%を消費しています。中国の人々は、2017年に約7,400万トンの豚肉、牛肉、鶏肉を食べると予想されています。米国農務省の推計によると、これは米国の約2倍にあたります。だからこそ、このアジア市場で我々の製品が受け入れられることは、世界的な意味を持つと考えています。 - 今後5年から10年の間に、植物由来の食肉市場はどのように変化していくと考えていますか?
- インポッシブル・フーズは食品会社ではありません。バイオテクノロジーのスタートアップであり、肉の分子レベルでの働きに関する世界的な知識を持っています。私たちはその知的財産を使って、地球温暖化や絶滅の危機を食い止めるために、家畜に代わる食品を作っているのです。
同様に、インポッシブル・フーズは「植物性食品の会社」ではありませんし、世界のフードシステムを持続可能なものにするために活動している企業と競合することもありません。私たちは、ビーガンやベジタリアンの人たちをターゲットにしていません。ビーガンやベジタリアンの人たちは、世界中で3%程度しかおらず、彼らはすでに家畜関連の製品を排除して正しいことをしています。
むしろ、インポッシブル・フーズは畜産業界と相反する存在です。私たちが気にかけている唯一の消費者は、肉を愛する”オムニヴォア”です。なぜなら、私たちは家畜を利用することで、環境破壊の危機に瀕しているからです。
食用動物を利用することは、地球温暖化の最も大きな原因となっています。私たちの交通やエネルギーの習慣を変えずに、家畜を廃止して(インポッシブル・バーガーなどの製品に置き換えて)、2100年までに世界の排出量の56%を削減することができます。これは温室効果ガスの総排出量の44年分に相当します。温室効果ガスの蓄積を30年間止めることができるため、気候変動への影響は、最初の数十年で急速に拡大します。さらに、家畜を排除することで、生物種の絶滅、森林破壊、水質汚染のリスクが大幅に軽減され、人類の公衆衛生上の危機を回避することができます。
私たちは、美味しくて栄養価が高く、持続可能な製品を作ることで、他社との差別化を図っています。インポッシブル・バーガーは、牛を使ったバーガーに比べて、水の使用量が87%、土地の使用量が96%、温室効果ガスの排出量が89%、淡水の汚染が92%削減されています。 - どうやって商品を作っているのですか?
- インポッシブル・バーガーは、インポッシブル・フーズの主力商品です。ニューヨーク・タイムズ紙で植物性バーガーのトップに選ばれ、全米レストラン協会からはFood and Beverage (FABI) Awardを受賞するなど、多方面で評価されてきました。
インポッシブル・バーガーは、カリフォルニアのシリコンバレーにある本社で、10年近くかけて基礎科学と徹底した研究開発を行った結果、牛肉のような味を再現することに成功しました。パティは、大豆たんぱく質、ひまわり油、ココナッツ油などの持続可能で健康的な原材料に加え、肉に近づけるためヘムを使用しています。
ヘムとは、植物、動物を問わず、すべての生物に含まれる分子で、肉の味や見た目を作っています。ヘムは特に肉に多く含まれており、鉄分を直接摂取することができます。インポッシブル・バーガーのヘムは、大豆の根に含まれ、レグヘモグロビンというタンパク質に結合しています。インポッシブル・バーガーのヘムは、肉に含まれるビタミンやアミノ酸、糖質などと結合して熱を加えることで、人間の味覚や脳が肉と認識する味を生み出します。
世界的な食肉需要に応えるためには、動物を使わずにヘムを量産できる方法を開発する必要がありました。私たちは、酵母に植物の遺伝子を加えて発酵させることで、植物が本来持っているヘムタンパク質(レグヘモグロビン)を、わずかな環境負荷で無制限に生産できることを発見しました。牛肉の持つ独特の味と鉄分を、わずかな天然資源で実現しています。
あとがき
「真の競争相手は、現存する動物由来のフードシステム」といわれ、普通にお肉を食べている私もここに入るな、と思ってしまいました。日本ではまだまだこのあたり著しい広がりがないですが、おいしくて環境を守れるならいいことですよね。皆さんは、おいしい植物性お肉がスーパーマーケットにあれば買いますか?
インタビュアープロフィール

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満木夏子
Pivot Tokyo - Pivot Tokyo 主催。日本からグローバルに挑戦する人を増やすため、GKCorsという英語の幼児教室を運営している。世界最大級のテクノロジーカンファレンス、ウェブサミット日本事務局のレプレゼンタティブも務める。