Pivot Tokyo 2020 オープンインタビュー
「これからのワークスタイル “働く”にまつわる変化とは」
率先して在宅勤務継続を宣言した富士通株式会社。首席エバンジェリスト 中山 五輪男 氏を迎えて、
現状の仕事の進み方やワークスタイルの変化を伺いました。

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スピーカープロフィール
中山 五輪男(Iwao Nakayama)
富士通株式会社 理事 首席エバンジェリスト - 1964年長野県生まれ。法政大学卒業後、複数のIT企業を経て、2017年富士通(株)入社。最先端テクノロジーを得意分野として年間約200回以上の講演活動を行う。書籍の執筆活動やTV番組出演の他、国内30以上の大学で特別講師も務めている。
丸3ヶ月ほとんど出社していない。こんなことは人生に今までなかったですね。
- 在宅勤務を継続すると宣言してから約1ヶ月。現状の働き方はどのようになっていますか?
- 宣言は5月でしたが、実際には3月の下旬くらいからテレワークが一斉に始まっていました。今は6月下旬ですが、丸3ヶ月間ほとんど出社していない状況です。電車に乗ったのも2回とかですね。
こんなことは人生で今までなかったのですが、私だけでなく他の社員も同じような状況です。
また富士通は、海外にも拠点があるので海外の状況も入ってきますが、海外でも日本と同じようなワークスタイルになっていますね。むしろ、ヨーロッパなどは徹底したロックダウンの中で、家からも出られないために、テレワークでの働き方より中心になっているようです。先日発表した25%という数字がありましたが、今後もこの数字の中で(出社率を)抑えて、業務を進めていくという感じになると思います。ただ、会社に出社しないと進まない業務とかもありますね。日本ではまだハンコ文化もあるので。 - 契約書の発行とかもそうですね(笑)
- そうそう(笑) 富士通も多くのお客様との取引がありますので、その中で必要な押印作業のために出社する社員の方がいるのも事実です。
県またぎも解除になりましたし人の流れが戻ってくる中で、温度差はありますが、事業部門ごとの出社ルールが設定されてきた様子もあるようです。 - 事業部門ごとの温度差、というとその差はどう生まれているのでしょうか?
- 仕事の内容ですね。例えば、私が所属しているマーケティング本部だと、出社しなくてもインターネット環境があれば仕事は成立します。特にオンライン会議が便利で、会議室を取らなくてよくなった。打ち合わせにすぐメンバーが集まれるので、仕事が進みやすくなっているんですよね。
ただ、コールセンター対応やお客様に向けた対応は、出社する必要があることも多いです。特に、こういった状況なのでテレワーク環境を整えたい、といったお客様からのニーズは増えてきています。
テレワーク環境を整えるためのPCを販売することや、ネットワークの増強、クラウドシステムの導入を進める中で、オンライン対応だけでなく、実際に現場にきてもらえないか?といったご相談がお客様からあるのも事実ですので、営業スタッフは出社した後にお客様を訪問をしたり、ということもあるようです。
会社としては、ワンフロアあたりの出社率を25%以内に納めるということを提唱していますが、各事業部の出社に伴うローカルルールが出てくると、結果としてフロアあたりのトータルが25%を超えてしまったり、という問題もあって。自分の部署のみならず他部署との協力も必要になるため、富士通もそうですが、大きな企業だとこういった調整も課題になっているのではないか?と感じています。
ただ、実際に、富士通の社員が会社に来ているか?というと、特にマーケティング本部では、ほとんどが出社してないのが現状です。
これまで社員が一斉にテレワークを実施したことはなかったんですよね。試験と本番ではこれほどまでに違うのか、と。
- 移動時間がなくなって時間の使い方は効率化されましたよね?
- そうですね、だから意外と忙しいですよ。次々入ってきて、ひどい時は夜も入ってくるし、最近では土日も入ってきますね。
私の周りでいうと、幹部社員がほとんどなので、土日も関係なく仕事だ!と言う感じで仕事してましたけどね(笑)いずれ休みが取れるようになったら、GW休めなかった分ほかで休んだら良いかな、とも思っています。
富士通でいうと、去年、東京オリンピックを見据えてテレワーク月間を実施していました。特に富士通はオリンピックの公式スポンサーでもありますし。昨年テレワークを実践していた分、ネットワークや使用端末などの整備をだいぶ整えていた部分もあったのですが、実際に今年テレワークを実践してみると、社員が一斉にテレワークを実施するということはなかったんですよね。試験と本番ではこれほどまでに違うのか、というほどの物凄い量のアクセスが集中してしまったんですよ。ネットワークがパンクしてしまったり。
これは富士通のみならず、他の企業でも起こった問題だったようですね。富士通では、さらに増強して運営しています。
また、オンライン会議が中心になると、世の中には色々なオンライン会議サービスがありますよね。その中でどのサービスを選ぶか?というのは、自社の環境やネットワークに一番適しているものを考えながら選び、体制を整備していますね。
デジタルを使って仕事の仕方だけ変えてもダメなんですよね。制度や、働く文化を変えていかないとダメ。
- 少し話が戻りますが、テレワーク環境で忙しさが増すと、ワークタイムがどこで区切られるのか?が見えにくくなりますよね。そこで懸念される点として、健康問題というのは無視できないと思います。加えて、休暇の取り方も変わってくるのでしょうか。
- そうですね。あと、富士通の中でまだ問題にはなっていないけれど、管理職と部下との間の関係は悪くなっている、というのは聞きますよね。1時間ごとにチャットで監視されるようなメッセージが届いたりだとか。そういうのはどうなんだろうなあって。
一気に世の中がパラダイムシフトしてしまいました。これまでも多くの企業がDXを提唱していましたが、もはやデジタルを活用しないとどうしようもないという世の中になりました。
それは、良いことなんだけれども、デジタルをただ使って仕事の仕方だけ変えてもだめなんですよね。制度や働く文化を変えていかないとダメ。 - 先ほどチャットで監視するようなマネジメントが問題になる一方で、一切チームに干渉しなくなってしまうマネジメント層がいるというのもまた問題ですよね。
- バランスが難しいですよね。あまり監視してもダメだし、監視しなさすぎてもダメだし。マネージャー層の力量が試される時代だけど、今まで経験してない環境でのマネジメント方式だから、誰も回答を持っていない。各企業や職種ごとに上手くいく・いかないというのもあるだろうし。バランスをそれぞれのマネージャー層がどう取るのか?というのは、課題です。今までの人事制度は通用しないでしょうね。
New Normal時代、パフォーマンス型の評価に切り替えていかないと破綻するんじゃないかな?と思います。
- 何で評価するのか?も変わりますよね。これまではPay for timeだったものがPay for performanceにならないといけなかったり。
- まさにそう!今までは会社に行くこと=仕事、として評価されていたし、オフィスでは目の前に上司・部下がいて、チームメンバーが仕事している様子も見えていたけれど、今は目の前に誰もいないから仕事ぶりが見えなくなっているよね。そんな中で富士通は昨年社長も変わって、人事制度が一気に変わったんですよ。
これまでは、終身雇用のエスカレーター式の精度だったんですが、ジョブ型人事制度として年齢などが関係ない評価制度になっていったんですよね。設定されたジョブレベルを達成できないと降格になるという。ただ、定義されたジョブを達成していればそれで良いんです。
いかに成果を出したか?というのが評価される、ジョブ型人事制度を今はマネジメント層から始めていますが、まもなく一般社員にも適用していくし、おそらくこの形を他企業も踏襲して切り替えていくのではないか?と思います。New Normal時代、こういった(評価の)形に切り替えていかないと破綻するんじゃないかな?と思います。 - 評価の部分でいうと、評価される側が正当な評価をもらったと思えるようにならないとなかなか今後は成立しないですよね。
- 外資系企業はこの形式なんですよね。これまで日本企業はあまりこういったパフォーマンス型の評価になっていなかったけれど。こういった評価形式に慣れるのも時間がかかるだろうし、(新しい)評価制度の中で生き残れる人、そうでない人というのも出てくるでしょう。ただ、やってみないと分からない。
デジタルにつながっているということを前提に、仕事の仕方や制度、文化を考えければならないという方向に変わってきている。そういう方向に頭を切り替えないといけない。
- あらためて、在宅勤務を続けてきたなかで、総じて見えてきた新しい働き方における良いポイントや課題があれば改めてお伺いさせてください。
- 良いポイントだと、さっきも言ったように、モノに捉われない働き方ができるのはいいですよね。これまでは会議室が取れるか取れないか?ということのに予定が左右されていたけれど、そういうのはなくなった。あとは、他の働き方、特に営業マンが、お客様と会話をする方法にも選択肢が増えて、シームレスなコミュニケーションが取れるようになる、成立するというのはいいですね。顔も見えるし、資料や製品もカメラの前で見せることもできるし。
新しい時代の会議の仕方や、モノの売り方そして買い方も変わってきます。デジタルが中心になってくると思う。この前『アフターデジタル/藤井 保文 (著), 尾原 和啓 (著)』という本を読んだのですが、目の前に見えるリアルの世界はすでにオンラインの世界に包含されているということが書いてあるんですよね。
これまではリアルとデジタルは別のものという認識だったけれど、これからはデジタルにつながっているということを前提に、仕事の仕方や制度、文化を考えなければならないという方向に変わってきています。そういう方向に頭を切り替えないといけないと思っているし、全国のお客様にもエバンジェリストとして伝えている、というのが今の私の仕事です。
失敗しても良い。柔軟な発想で、失敗を許せる文化を、日本人は持っても良いと思う。
- 最後に、他業界や企業の方にとっても、新しい働き方を考えるヒントになるようなことがあれば教えてください。
- 例えばデジタルがもっとも進んでいる国がどこか?というと、もうシリコンバレーじゃないんですよね。中国の深センだったりする。変化のスピードに加えて、取り組むまでのスピードがものすごく早い。日本人って取り掛かるまでにすごく時間がかかるんですよね
- ちゃんとやろうと思いますからね。
- そう。そうなの。それが日本人のいいところだし、ちゃんとしたものも作るしね。
ただ、そこに時間がかかりすぎてしまっているのが現状で、世の中のスピード感とのバランスが崩れてきてしまっているといのが現実だと思うんですよ。少し早さを変えないと、まずい状況かな?と感じます。
では次に、業界関係なく何が言えるか?というと、とにかくトライアンドエラーを早いタイミングでやっていく、ということだと思います。深センもトライアンドエラーを繰り返している都市なんですよ。失敗してもいい。柔軟な発想で、失敗を許せる文化を日本人は持っても良いような気がしますよね。
だから業界関係なく、私たち日本人に求められているのは意識の改革なんじゃないかな?とい思います。デジタルツールは身の回りにたくさんあるし、その中でどう使うか、どう組み合わせていくか、どう考えるか?の違いだと思います。発想を転換して前に進んでいきたいですよね。今までとは違う常識で新しいNew Normal時代に向かって行けたらな、と思います。
インタビュー動画
あとがき
「新しい働き方」は、ビジネスの世界に身を置く我々にとって、最も身近に感じた変化のひとつだと思います。
テレワークが進んでいくことに対してポジティブに感じる人もいれば、そうでない人もいるというのが、まだまだ日本の現状ですが、評価制度や働き方の文化がこれにより変わっていくことで、世界水準に日本が追いつくチャンスでもあると、本インタビューを通して感じることができました。労働環境や文化が変わることにより、“働く”ということが、日本人にとって益々充実したものになることを願ってやみません。中山さん、ありがとうございました!
インタビュアープロフィール
- Pivot Tokyo