「リモートワーク」という言葉は、ここ数年で外的要因もあり一気に普及しました。リモートワークは、最近話題となっているDecentralize(分散化)の考え方に基づいています。この分散化の概念に基づいて2014年からリモートワークを実践、支援している会社があります。今回はキャスターの創始者であり代表を務めていらっしゃる中川氏にお話を伺いました。

-
スピーカープロフィール
中川 祥太
株式会社キャスター 代表取締役 -
ネット広告代理店のオプト社、ソウルドアウト社を経て、イー・ガーディアン社に入社。大阪営業所立ち上げ、ソーシャルメディア関連事業を担当。その後、新設された事業企画部立ち上げの過程でクラウドソーシングと出会う。日本の市場におけるオンラインワーカーの発展途上な環境にもどかしさを覚え、28歳で起業を決意。2014年9月に株式会社キャスターを創業。2020年9月に一般社団法人リモートワーカー協会を設立。
2014年からフルリモート、その背景とは
- 2014年からフルリモート経営をされていらっしゃいますが、その当時まだ日本国内でリモートワークは今ほどではなかったと思います。その状況下で会社を設立しようと思った背景とは。
- 背景にあった考え方はすごくシンプルです。2012年位からでしょうか、前職のときにオンラインで働くクラウドワーカーの方々との接点が生まれ始めました。当時から日本国内において、リモートワークをしたい人たちの潜在需要はかなり多かったです。
それを実感として得ていたので、「リモートワークをやってみるか」という流れになりました。2010年代前半は「リモートワーク」より「テレワーク」と言っていましたが、今のように雇用するという考えはほぼなく、業務委託中心の内職のようなものの延長としてのテレワークというイメージが非常に強かったです。新規参入企業は、安い報酬で人材を獲得できるという点に利点を見出し取り入れている企業が多かったです。しかし、そういった環境では、長く働こうとする人たちの母数が増えないので、市場として成熟しないだろうと思っていました。逆に、一般的な雇用形態で10年でも20年でも働けるような環境を作ることができれば成立するだろうと考えていました。
- 設立当初、リモートワークがカルチャー的にもあまり主流でないということで、集まって対面で仕事をしようという話が出ることはありませんでしたか?
- 最初の社員は、長崎の島原市在住でした。しかし、いきなり雇って東京に来させるわけにもいかないですよね。設立して3カ月以内に10人ほどリモートで雇っていましたが、スタートアップでそんなにお金もあるわけではなかったので、全従業員にこのままリモート体制で進むんだろうな、という認識は最初からあったと思います。参画した社員たちも、そのエリアを出る気がなかったこともあり、1か所に集まった方がいいよね、という議論もほとんど発生しませんでした。これが中途半端に集まれる距離感であれば、1か所に集まろうかという議論も出たかもしれません。
- 今回「web3思考で働く」をテーマに上げています。分散型組織は今後も増えていくと言われていますが、中川さんはどのようにお考えですか?
- web3と呼ばれる概念全体の中でいうと、分散型、DAO(分散型自律組織)の組織形態は少し昔に僕たちがトライしていたことに世界的に取り組まれるようになったのだなと感じています。
非中央集権組織というどこか1か所に偏っていないという考えは、元々ホラクラシー組織形態としては2015年くらいから提唱されていました。我々も2018年ぐらいまではこの形態で運営しておりました。それ以後、トライする組織もあったと思いますが、おそらくほとんど断念されたかと思います。
- 人材が流動的になってくると、既存の形態でやっている企業も今後リモートワークなどを取り入れざるを得ない点も出てくると思います。導入の際のポイントはどのようなところでしょうか。
- 企業は、ある目的があってそれに向かって動いていきます。その目的達成の為に必要なスキルセットを持っている人たちを集めるための効率や手段として、リモートワークを可とするのか不可とするのかという点につきると思います。可としたのであれば、働く人たちが求めるもの、就業を継続しやすい環境を用意するまでです。そのあたりを理解されている経営者の方であれば、違和感なく取り入れられていくと思います。
昨今、コロナの落ち着きと同時にオフィスへ戻るという話も出てきていますが、それもその手法が一番効率が良いと判断して経営者が実行するのであれば良いと思います。それを好むか否かという選択の権利は、当然ですが労働者にあります。リモートが良ければそういう企業を選べる時代です。
- どのような働き方がweb3時代らしい働き方だと思われますか?
- 人の生活において、仕事の時間はどうしても大きな割合になります。そのなかでどのように人や社会との関わりを求めるかという点は個人レベルで考えた方が良いかと思います。
実際にあった例ですが、リモートが自身のライフステージに合わずに辞めた方もいます。20代の間に結婚したいと思っている方だったのですが、リモートワークは対面での出会いは少ないので、それが退職の理由でした。リモートワークという就業には満足しているが、出会いがないからというのは、私の中でも非常に納得感のある理由でした。
逆も然りで、電車通勤したくないという方もいらっしゃると思います。生活においてどこを重視するかという話かと思います。
リモートワーク普及と課題
- リモートワークでの成果の可視化はどのように行っているのでしょうか。
- 一番適用規模が大きいのは、実際にかかった業務時間をトラッキングするという方法です。従業員の給料は、社内の生産性だけで決まるものでもなく、市場価格に引っ張られるところもあります。そこへの連関性がどうかというよりも、その人が働いてる時間に対しての稼働が生産性の高い状態になっているかを各領域ごとに様々な方法で観ています。
ツールについては、システム構成全体には既存のものを組み合わせていますが、一番規模の大きいツールはインハウスで開発しています。
- 今後の日本は、人口減少による働き手の確保の課題や、働き方の多様化により人材が流動的になるという話がありますが、人材やリソースの分配についてはどうお考えですか?
- 個人で複数社に対してリソースを分配するというのは、実はリソース効率が悪くなる傾向があるのでものすごく大きなトレンドになることはないと思っています。サーバーリソースで考えるとわかりやすいです。AWSはものすごく効率がいいですが、あれはAmazonのすべてを束ねてるから効率がいいのです。例えば、サーバー提供企業が無数に細かく乱立してた時は使いやすかったのか、という話でいうとそんなことはないと思います。web3においては、それをだいぶ概念的に実装できるようなところに近いとは思いますが、その効率化はまだ発展途上です。サーバーに比べ、人間のリソースはより切り分けにくいものです。簡単に分散されたところで効率があがるものでもありません。
- 日本のリモートワーク普及への課題はなんでしょうか。
- 概念自体というより、日本がもともと抱えていた課題が浮き彫りになることかなと思います。例えば、言語の壁などです。リモートワークの利点は、国家間の壁も言語を備えていれば簡単に越えられることです。特定のスキルセットを持つ人がアメリカにいれば、遠隔でハイヤリングすることも可能です。しかし、言語の壁があると、範囲が狭まってしまいますよね。日本においては、そういった課題が表面化してくる可能性はあると思います。
- これからリモートワークを取り入れる方にメッセージを
- コロナで多くの会社が実践されていて、向き不向きを多くの経営者の方が身をもって体験されたと思います。総評として、日本の人口は減少します。そうすると、採用コスト、人員の維持コストは必ず上がり、労働集約的な場所を維持することはより困難になります。。リモートワークは、この課題に対する策として既に示されているので、取り込まないとなると長期スパンで見ると厳しいのではないかと思っています。
あとがき
Web3思考で考えると、様々な業界、業種で新しい形がうまれるのだなと再確認したインタビューでした。中川さんもおっしゃっていた通り、分散型の働き方は以前からもあったもの。それをこのWeb3という言葉とともに語ると新しく見えそうなものですが、コンセプトは昔からあったもの。そういったものが他にもたくさんあるのではと思いました。
インタビュアープロフィール

-
満木夏子
Pivot Tokyo -
イタリア系ファッションブランドの日本法人を経て渡英。帰国後は、グローバルカンファレンスadtech の運営責任者を務める。
2020年Pivot Tokyo設立。D2C Summit、NFT Tokyo を立ち上げ。日本からグローバルに挑戦する人を増やすため、GKCorsという英語の幼児教室を運営している。