INTERVIEW

web3 革命:分散化は、イノベーションと進歩のための新たな機会を提供するか

NFT Summit Tokyo 2022 (3/17-18)の開催に向けた特別エッセイ。英国元首相トニー・ブレア率いるTony Blair Instituteのベネディクト・マコン・クーニー氏に語ってもらった。同氏は同サミットへも登壇予定。

スピーカープロフィール

Benedict Macon-Cooney

Deputy Executive Director of Technology and Public Policy
トニー・ブレア・インスティテュート
Benedict Macon-Cooneyは、トニー・ブレア研究所の技術・公共政策担当副エグゼクティブ・ディレクターです。バイオテクノロジー、クリーンテクノロジー、暗号技術など、今日のイノベーションの最前線を担う技術に焦点を当てています。キャリアの初期には、女王陛下の財務省とルワンダの大統領府に勤務していました。
歴史をたどる
1970年、経済学者のアルバート・ハーシュマンは、衰退する制度に直面したときの人間の行動に関する画期的な著作を発表した。組織社会の論理的構造"退出、告発、ロイヤリティ "である。その概要は、顧客や市民において選択のフレームワークを提示した。

クォリティが低下したとき、人は消費を止めるか、告発するのか?あるいは忠実であり続けるかを選択するようになるというものだ。

このモデルには常に限界があった。しかし今日のテクノロジーは、ますますエキサイティングな反応を私たちに与えている。

構築:この技術分野の「構築」は、これまで主にソフトウェアに焦点が当てられており、私たちの時代の最も成功した企業の多くは、コードに基づいて構築されている。しかし、Web 3.0や分散型自律組織など、プライバシーやセキュリティを高めるためのブロックチェーンベースの技術への関心が高まるにつれ、多くの人が新しいインターネットのフロンティアと見なすものを探求している。

このような新技術の探求に費やされるエネルギーとリソースは、ネットワーク時代の新しいタイプの組織構造の到来を目の当たりにしているようなものなのだ。これらの新しい組織ネットワークは、新しいタイプの所有権をモデル化し、社会的関係を再構築し、最終的にはイノベーションのための別のメカニズムを提供する。
新しいオーナーシップ形式
30年余り前、ティム・バーナーズ=リー卿は、オープンプロトコルを用いた情報システムのネットワークとしてのウェブのビジョンを記した重要な文書を書いた。この構想はWeb 1.0と呼ばれ、この新しいネットワークに不可欠な要件の1つは分散化(decentralization)すなわち中央管理がないこと、それは、個々のユーザーや構築者が利益を得るシステムであることであった。

しかし、現代社会をつなぐインターネットの帯域が増えるにつれて、巨大な技術者が支配するようになった。Web2.0への移行、つまり今日の基本的なモデルは、企業がサーバーをコントロールし、システムを集中管理するようになっている。そして、ネットワークの価値を保持するのは個々のユーザーではなく、ユーザーのコンテンツをマネタイズするプラットフォームとなった。ネットワーク効果やスケーラビリティがメリットとなり、その代わりに消費者はGoogle Mapsや検索などの商品を無料で手に入れることができるようになっている。

多くの人にとって、これはウェブの基本的な精神を破壊するものになった。少数の企業に権力を委ねることで、より多くの自律性と機会という本質的な利点が失われてしまった。しかし、暗号通貨(クリプト)の誕生によって、このWeb1.0の考え方がよみがえった。クリプトはクライアント・サーバーモデルではなく、P to Pのネットワークで動作する。ブロックチェーンとネットワーク内のすべての異なるノードが新しい情報をレビューし確認するため、信頼できる仲介者を中間業者として必要としない。ガバナンスは分散され、個人は自分のデータを所有し、1箇所に問題があったら止まるような単一故障点(Single point of failure) はない。

ベンチャーキャピタルa16zのクリス・ディクソンは、Web3.0を定義した。 "Web1の分散型、コミュニティ統治型の倫理観とWeb2の先進的でモダンな機能性を兼ね備えている"。また、投資家のパッキー・マコーミックは、”インターネットはビルダーとユーザーによって所有され、価値の移転はトークンの使用によって行われるのである。トークンによって、イノベーターがネットワークを閉ざすことなく経済的価値を獲得できるのであれば、Web 3.0は、世界最大の問題を解決するために必要なインセンティブ構造を修正することにもつながる。このことは、社会的インパクトの高い商品やサービスが資本を集めるのが難しいことを解決して、調達モデルを構築しようとするものになる”とした。

例えば、公的資金をほとんど受けていない人間の長寿の研究のような実験的で少し変わった研究などは、政府の意思や通常の企業投資だけに頼るのではなく、わずかな個人の参加で実行可能になる。これこそ、現在の制度と、その制度では対応しきれない課題との間にある指数関数的なギャップを埋めるために必要なことなのである。
新しいソーシャル•ストラクチャー
Web1.0に始まる技術革命は、世界の多くの人々にとって、解放的なものだった。スマートフォンで簡単に生活ができるようになったことから、テクノロジーが可能にした健康の進歩に至るまで、進歩の歩みは概して肯定的なものであった。社会的な観点からは、個人の自由が拡大し、コミュニティと協力の新しい絆を形成する機会が大幅に増加した。最終的には、組織化された力としての国家への依存度を低下させることにもなった。

Webが発達したおかげで集団が組織となり、そして今日の共同ネットワーク時代へ変遷した。それは社会的にも、世界的にも組織の再編が行われるようになった。このことは、人類の長期的な進化につながった。

こうしてできた新しいタイプのコミュニティは、「ブラック・ライブズ・マター」のような共通の信念に基づく文化的なものであることが多い。そしてまた、科学や技術の進歩を生み出すこともある。

タンパク質の折り畳みに関する分散型研究プロジェクト「Folding@home」がそうである。科学者が潜在的なコンピューティングパワーを利用して、COVID-19の新しい治療法を開発することにつながった。

Web 3.0とDAO(decentralized autonomous organizations)は、この文化的要素を提供すると同時に、その背後に新しい構造を置くことを試みている。DAOは、中央集権的なリーダーシップのない、オンライン上の多様なグループ間のコラボレーションの手段として機能している。DAOのガバナンスと消費に関するルールは不変であり、そのスマートコントラクトに組み込まれている。DAOを支える技術的な原則は、オープンで透明性のあるトークンによって参加するクリプトとブロックチェーンによって構築されている。

一部の人にとって、このストラクチャーはそれほど急進的でも魅力的でもないと感じるかもしれません。トークンが異なるだけです。他の人々にとっては、これは構築するための新しいルートを提供し、「ブートストラップ問題」、すなわちスケールする前にネットワークを構築する方法を克服できる成長モデルを提示します(「スケール」とは、ネットワークがユーザーの大きな閾値を満たして初めて価値が生じることを意味します)。

トークンが違うだけで、この仕組みはそれほど過激でもないし、魅力的でもないと感じる人もいるかもしれない。しかしまた、「ブートストラップ」、つまりスケールする前にいかに自前で組織を構築すること(「スケール」とは、組織が急激に大きくなり始めたときに、初めて価値が生まれるという意味)をが可能成長モデルを目指して新しいストラクチャーをスタート人もいるでしょう。


このため、クリプトの一部や、最近では販売用GIFとしてよく見られるNFT(Nonfungible Token)の投機的性質に批判が集中するのは、的外れな場合が多い。実は、この問題はインターネット時代における財産権や所有権についてのより広範な問題なのだ。

Web 3.0に関わる多くの人々は、手っ取り早いリターンを追い求めており、それは長期低金利の環境下では必ずしも不合理ではない。しかし、こうしたさまざまなコミュニティは、伝統的な制度や組織を見直そうという点では一致していることが多い。例えば、中道左派の人々にとって、Web 3.0とDAOは、21世紀版の協同組合運動(地元の生協のようなもの)を約束するものであり、グループが共に創造し、購入し、販売するものである。

より過激に言えば、Blockchain SocialistはWeb 3.0を反資本主義左派にとって不可欠な組織化ツールであるとみなしている。右派、特に自由主義者寄りのグループでは、主権者である個人に近い現実を提示し、国家権力の衰退を示すものである。
新しいイノベーションの方法
Web 3.0の魅力の一つは、ゲーム、出版プラットフォーム、分散型金融、知識のホワイトスペースにおける科学的発見など、インセンティブを伴う新しい参加形態を生み出そうとしていることだ。しかし、このような有望なものを実現することは難易度が高い。革新的な科学者は主流の資金を確保するのに苦労することがあまりにも多い。分散型社会構造は、例えばバイオテクノロジーや宇宙などの先駆的な研究課題に資金を提供する新しい方法となるだろう。

従来のストラクチャーが持っている怠け癖のようなものは、新しい集団的な能力に期待する人たちに、既成概念にとらわれない発想をさせるようになってきている。例えば、VitaDAOは自らを「ディセントライズド•コレクティブ」と名づけ、人間の長寿に関する初期段階の研究に資金援助を行っている。この分野は、寿命を延ばすだけでなく、慢性疾患の治療法を見つけることによって、人の健康寿命(健康でいられる期間)を延ばせる可能性があるなど、社会的に大きな影響を与える可能性がある。長寿の研究は、まだ始まったばかりの分野だ。米国国立衛生研究所には加齢生物学部門があり、PubMed(世界医学論文データベース)での長寿に関する検索は2000年以降5倍程度に増加しているが、例えば癌に関する検索に比べると、まだ10倍程度にとどまっている。しかし、技術分野の研究者が挑戦しようとするのは、よりラディカルで未来志向の分野である。

全体として、これは良いことだと思う。なぜなら政治の世界では、多くの人の生活を向上させようとするのではなく、より悲惨な要素が反出生主義に波及するなど、私たちの可能性を悲観する人があまりにも多い。しかし、私たちの未来に資金を提供する新しいタイプの機関の可能性は、20世紀の統治理念をいまだに支持する人々にとっては、権力に対する脅威と映るだろう。
Web 3.0のどの部分が定着するのか?
ナショナリズムや保護主義が再び台頭している現在、政治の世界の多くの人々が、Web 3.0がもたらすより大きな分散化を受け入れるとは考えにくい。実際、ここ数年、誰がインターネットを支配するかという大きな争いが繰り広げられている。Splinternet(サイバーのバルカン化、断絶化)とは、権威主義的なインターネット観と、自由でオープンなウェブの間のイデオロギー的な戦いだ。この戦いは、Web 3.0やDAOを逃避的なビジョンとして提示すべきではない理由を示している。むしろ、これらのアイデアは、ウェブの進化がもたらす機会、そしてそれが生み出す制度やネットワークに関するものなのだ。本質的には、この議論はガバナンスについてである。

バラジ・S・スリニバサンのような専門家は、「仮想大学から始まり、デジタル経済を起動させ、フォークして新しいオプトインの政治を作ることができる」ネットワーク国家というアイデアを見事に打ち出している。このネットワーク国家は近い将来、技術的に可能になる可能性があり、物理的な国家は分散化がもたらす可能性についてもっと明確に考えるべきだ。ポストCOVIDの世界ではリモートワークが増加し、エストニアがe-Residencyを通じて行ったように、各国は新しい方法でグローバルな人材を獲得するために競争することになるだろう。

Web3.0の世界はまだ先のことだ。Cloudflareのような企業はこの新しい時代に賭けている。現在、私たちは期待値のピークに近いところにいるのではないか?その後に続く幻滅の谷では、新しいテクノロジーに対して反射的に懐疑的になりがちな人たちが、自分の悲観論が正当化されたと考えるようになるだろう。懐疑論者が正しいことを言うこともあるが、多くの場合、そのような考え方は未来へのガイドとしては不適切であり、また、人々の参加が必要なときに、人々のやる気を失わせることになる。

世界がどのように変化しているかを理解しようとする人は、Dogecoinのような「クソコイン」によって嘲笑されたクリプトの行き過ぎを表面下に掘り下げる必要がある。まだ懐疑的な人もいるかもしれないが、Web 3.0への推進は人によるものであり、このようなトレンドを理解することは、しばしば我々が知る世界について多くのことを明らかにするものである。人々は新しい形の発言権を行使し、もはや役に立たない伝統的な組織からしばしば出ていこうとしている。古い考え方にとらわれることは期待されず、人々は新しいものを構築するためのツールを持っている。これはエキサイティングな革命なのだ。

原文:https://www.discoursemagazine.com/culture-and-society/2021/10/27/the-web-3-0-revolution/
参考文献
*アルバート・O・ハーシュマン
*組織社会の論理構造―退出・告発・ロイヤルティ (1975年)
* クリスディクソン
*バラジ•スリニバサン
*Cloudflare



あとがき

ベネディクトさんは、NFTサミットにもご登壇いただきます。コンテンツは17日に公開します。
ご参加の皆様、お楽しみに。

NFT Summit Tokyo 2022
March 17-18 @ Shibuya
https://www.nft.pivot-tokyo.com/

インタビュアープロフィール

満木 夏子

Pivot Tokyo
Pivot Tokyo 主催。D2C Summit、NFT Tokyo 立ち上げ。日本からグローバルに挑戦する人を増やすため、GKCorsという英語の幼児教室の運営も。

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